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1. 「裏日本」という言葉にまつわる2つのイメージ

そう言えば今まで、日本海側へ生活圏としてあまり行くことがなかった気がする。

山口県出身なので、萩や長門などには時々行っていたし、結構有名になってきた角島だって日本海側だ。今は弟が富山に住んでいるし、出雲大社で参拝したり、観光で新潟に行ったりもしているけれども、それらは意識的に向う先であって、自分の生活圏としてではなかった。

つまり、日本海側は「意識して向う場所」であったのである。そこは瀬戸内海や太平洋側とは感覚的に違うものがあるのだろう。

ただ、山口という場所は日本海と瀬戸内海側が合流する場所で、その地理的要因は他の地域との感覚の違いを産んでいるかもしれない。

萩の砂浜ではハングル文字の印字された漂流物を容易に見つけることが出来たし、具体的に外国の存在を肌で感じることができる。下関では、韓国ウォンが通用する場所があったり、大陸への船が出ている港もあり両者の行き来は活発だ。国内旅行も時間も費用も変わらないくらいで行くことができる。

最近、別々の場所で2回ほど「裏日本」という言葉を聴いた。2回とも東京でだ。

山口は日本海にも面しているけど、そのような呼称を聴くことはなかったのだが、関東でのその言葉の持つ響きは独特のものがあり、とても印象に残った。

もう少し具体的に言うと、そこにはふたつのイメージが絡まり合っている。ひとつは「神秘的」なイメージ。そして、もうひとつは「陰鬱」なイメージである。

「裏」という言葉に対して、私はあまり悪いイメージを持っていない。

例えば、ゲームでいえば「裏技」は憧れの的だったし、何か必殺技や秘技を意味するような響きがある。価値のある秘密、というか。こちらが「神秘」的な響きとして現れてくる。

それとは別に、「裏日本」という言葉から受け取ったもうひとつの感覚は、言ってみれば「差別」の眼差しに近いものだった。これは西側にはあまりない感覚かもしれない。ただ、この関東の東京という街では、その言葉が蔑称のように響くことを確認したのである。それが驚きと、それとともにこの日本にビルトインされている文化的傾向の根の深さを感じさせた。

この2つのイメージが絡まり合い、私はその言葉の意味を理解したわけだが、そこにある違和感のようなものを言葉にしてみたいと思った。

2. 日本における「表」と「裏」の逆転

「裏日本」とは、本州の日本海地域、特に北陸・山陰のことを指す。

明治維新以降、国家というシステムを作り上げるにあたり、日本は人口や産業を東京や大阪、名古屋などに移動していくことになった。

近代的な工業が太平洋側に集中した事から、日本海側は太平洋側に農作物や労働力や電力の供給を行うことになる。日本海側からヒトやモノが太平洋側に流れ、それがインフラ整備として投資されたのだ。

その結果、日本海側の近代化は遅れることとなる。「裏」と「表」の役割分担は、近代国家を形成していく過程で意識的に行われていたのである。

けれども、明治維新より以前の日本は、日本海を挟んで向かい合う中国や朝鮮半島などとの海上交易が盛んであった。言ってみれば、「裏日本」はむしろ元々は日本の「表玄関」であったのである。

つまり、近代国家成立における一種の役割分担、搾取構造が日本海側と太平洋側にはあったのである。そして、国家としての主体は太平洋にあったのだ。

「脱亜入欧」政策の中で、そして、戦後の米国との関係の中で、「裏」と「表」が逆転していったのである。

3. 日本というシステムの行方

それでは近代以降、これからの日本においてこの「裏」と「表」の関係はどのように変化するのか、または変化しないのか。

日本海の向かい側にある東アジア諸国とは、政治的には不安定になっているが、経済的には切っても切らない関係がある。 その2つの傾向はこれからもっと深くなっていくことが予想されている。

例えば、様々な歴史的な軋轢や課題をとりあえず括弧にくくってみると、この環日本海は経済圏を作り上げるのに有効なまとまりのようにも見える。ここにはまだ多くのポテンシャルが残されているのではないだろうか。

日本の近代化によって、「裏」と「表」は入れ替わったわけだが、その揺り戻しのようなものの声に耳を澄ますことも必要なのかもしれない。そして、それは日本の国際関係の中での立ち位置に影響を受けていることも意識されるべきだ。

このことは地方分権の実現可能性ともリンクしている。新しい国のかたちと未来の行方を考える上で、大きなテーマであるといえる。

よく地方分権に否定的な人の中には、地方には自律できるだけの力がないという人もいるが、その自律の無さも、近代化、そして、脱亜入欧政策の中で人工的に形作られたものなのである。

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