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4-1 「旅人」のニーズを内面化していく地元

 現代社会において「旅人」というものは、消費者として捉えられている側面が強い。そしてその側面を支えている旅行産業は、かなり大きな規模を持っている。これも当然のことだ。なぜならば「旅」は、衣・食・住すべてにかかっているものだから。世界にはさまざまな「旅人」用のホテルや店、レストランなどがあり、それらはその地元に住む人びとの物価感覚とは別のレイヤーを作り上げている。ツーリスト価格というものも作り上げられているし、その地元にツーリスト向けのレイヤーが生まれたということも意味している。

 そこはかなり純粋なかたちでの「市場」が作り上げられているわけだ。売られているものは、旅人用にアレンジが加えられていたり、なんらかの付加価値がのせられている。それらはもともと地元の名物だったものを基本としながらアレンジが加えられているものだが、生活とは少し遊離した場所にあることも多くある。つまり、ツーリスト向けにつくられているのだ。そしてそれらは独特の進化をとげている。もともとはその場での生活文化に根付いたものでも、ツーリスト目線によって求められるものへのアレンジが求められてくるからだ。それは単純にツーリスト側からの視線が地元の人々に内在化されることも意味している。

4-2 貨幣経済が生み出すレイヤー

 そしてそのアレンジによって地元の人々が手にするのは「貨幣」だ。この貨幣が、地元の生活の糧となり、それによって生活に必要な商品を購入し暮らしていくことになる。これの意味しているところは、それによって広範囲にわたる貨幣経済のレイヤーに組み込まれていくことになる、ということだ。そして、その自分たちの商品を売って貨幣を得るということができない場合、生活すらままならない状態になっていく。つまりは貨幣への依存が始まるというわけだ。

 その貨幣経済によって、地元の生活も大きく変化することになる。貨幣を稼ぐことが仕事をすることにつながるため、生活文化に根付いた衣食住は、貨幣に変換することのできる価値としての場所を獲得するにいたる。つまりは、じっさいの生活とは遊離した存在へとなっていくのだ。そして実際の生活に使用するのは、手っ取り早く貨幣で購入することができるものに置き換わっていく。そのことによる弊害は、その地元の生活文化に根付いた衣食住がツーリスト用のものとなっていくために、その質的なものが変化していくということだ。日常生活で使用されるものでないため、耐久性などの面で劣化することが目立っていく。

 ただただ一時的なものとなっていくのだ。それは表面的なものだけが求められていくことと同じだ。長く生活のなかで質の良いものに触れ続けていればその劣化にすぐに気付くであろうが、ツーリストたちにはその違いはすぐに分かることは少ない。そういった意味で、貨幣価値と質がそれほど相関関係にないことも、旅行産業の現場で陥りやすいの現象ということができるかもしれない。その構造は、貨幣経済における必然だといえるが、そこにはツーリスト側からの視線によって規定されているレイヤーがあることを見落としてはならない。消費者と生活者の2分割が顕著にでる場所として観光地はその表象を強めていくのだ。

4-3 資本主義が作り出す階層社会

 そこで行なわれているのは、貨幣を稼ぐ場合と生活者であることの2分割だといえるだろう。それによって、そこに住む人びとはバランスを保っているのだ。しかし問題は、その貨幣を稼ぐモードにおいては、その効率の原理を少ない労力で多くの貨幣を稼ぐことに設定される、ということだ。そこに質の低下のようなものも入ってくるし、結果的にそれによって、伝統的な文化の蓄積を失ってしまうことにもないかねない。ただただシュミラークルとして消費されるだけの伝統文化。それは、資本主義社会を駆動する差異が価値を作り出すこととも連動している。つまり資本主義社会のなかで、それらの文化は記号として消費されていくのだ。

 このようなことが世界中で起きており、私たちはそれに巻き込まれずにいることは難しいことになっている。どこまでも貨幣経済が資本主義が差異をみつけて追ってくる世界、それが今の時代ということもできるだろう。もちろんそれは資本主義社会に限った変化ではないが、それを生活の場からドラスティックにしかもほとんど能動的にみえるほど変化させているのに、資本主義という存在は大きい。すべてを商品化して貨幣による生活が中心になると、それまで生活を支えていた衣食住の変化は形がい化していく。そして、商品化される側は、なかなか消費者としての位置を獲得することは難しい。

 つまり、商品を提供し続ける存在として、その地元が社会的に定義されてしまうことになるのだ。その関係性の構築も資本主義の運動のなかには含まれているといえるだろう。それは、生まれながれにしての格差をグローバルな社会のなかで固定化させることにもつながってくる。つまり資本主義には、そのように自らの起源や労働力を一方的に提供し続けるという階層を世界的に作りだしていくのだ。それは事実上の階級社会の生成でもある。次回は、グローバル時代における「階級社会」についてかんがえてみたい。